2010年12月14日火曜日

【レポート】12月10日 講演会「『はやぶさ』世界初のチャレンジ」

直前のエントリと日付が前後しますが、12月10日(金)に慶応大学日吉キャンパスで行われた、慶応科学講演会「『はやぶさ』世界初のチャレンジ ~NASAに先駆けて,なぜ日本がミッションを遂行できたのか~」に行ってきました。

例によって会場で取ったメモを手直しして貼りつけます。

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講演その1 JAXA・ISAS 久保田 孝さん(遅刻して行ったので、講演のタイトル分からず)

◇イトカワへの着陸
→はやぶさは太陽電池パドルを動かせないので、電池パドルを太陽方向へ固定した姿勢でないとタッチダウンとできない。

写真で見ると意外とイトカワの平らな部分が多いように感じられるかも知れないが、そういう理由で「はやぶさ」がタッチダウンできる範囲は非常に限定された。

◇「ミネルバ」に、「はやぶさ」から分離した瞬間に写真を撮る「隠しコマンド」を仕込んでおいた!(「はやぶさ」本体を撮影するため)

プロマネにも内緒の隠しコマンドだった。全て終わった後に「こんなの撮ってました」と見せたかった。「ミネルバ」が着陸に失敗したので、すぐ公開した。

◇ラストショット
→「撮るだろうと思っていた」

「はやぶさ」から送られてきた画像を処理するプログラムは私の研究室にあるPCに入っていたのだが、イトカワ離脱以来5年間動かしていなかった。パスワードを忘れていて焦ったが、5個目で通った。

◇カプセル回収
→回収班に「回収したら振ってみてください」と伝えておいた
→6kgもあるので重くて振れなかった

◇アメリカの反応
→「ナンバー1」はニアシューメーカーとスターダストとディープスペース1

アメリカという国は、国民に「自分の国がナンバー1である」という誇りを持たせる政策を徹底している

◇質疑応答
Q.「はやぶさ」後継機に積むミネルバの改善は?
A.「はやぶさ」では地球からのコマンドでミネルバを落とした。結果、コマンドが地球から「はやぶさ」に届いた15分後には、「はやぶさ」が障害物を検出し離脱噴射を開始していたため、投下に失敗した。2では、「はやぶさ」にタイミングを判断させ自律的に落とさせる。

Q.隠しコマンドで撮った写真の枚数は1枚?
A.たくさん撮った。「はやぶさ」は意味のある写真しか地球に送信しないようにプログラムされていたので、地球に送られてきたのは「はやぶさ」の太陽電池が写った1枚だけ。

Q.ラストショットを撮ったONC-W2の位置は?
A.探査機を正面から見て右横。あれは横を撮るカメラなので。

Q.ラストショット撮影後に、プロジェクトタイルが発射できるかどうか撃ってみるという話があったと聞いた。撃たなかったのか?
A.ラストショットがスムーズに撮れていたら、やっていたかもしれない。他にも試してみたいコマンドは色々あったが、ラストショット撮影に時間がかかったのでできなかった。プロジェクトタイル発射については、カプセル分離直後だと万が一カプセルにぶつかったらいけないので、分離後すぐ撃ってみる訳にはいかなかった。

講演その2 「MUSES-C『はやぶさ』カプセル回収作業」by カプセル回収班 杉浦枝里子さん

◇帰還当日のカプセル探査、3つの方法
・電波方向探査(”方探”と略す)
・光学観測
・航空機観測→NASAの航空機

光学観測担当1人、電波方角探査担当2人の3人で1チームとする。これが4チームあり、計12人。

◇電波方向探査の配置
・カプセル落下予想範囲の楕円を囲むように4カ所
・この楕円は東京湾以上の大きさ

この中のどっかに落ちるから探してね♪
→ほぼわかっていないに等しい

方向探査局各班からの情報を本部で集約し、「ここだ」

本部との連絡は衛星電話。結構途切れて大変。

◇当日の仕事
1.火球の目視確認、報告(光学観測)
2.ビーコンONの確認(電波方探)
→これは「パラシュートが開傘している」、「カプセル内部電池が生きている」の確認になる。
3.1分ごとにビーコンの一番強い方向にアンテナを向け(これを「ロックオン」と呼ぶ)、その方向を本部に報告する。

22時52分(日本時間) 火球確認
22時56分 ビーコン入感
22時57分00秒から1分ごと ビーコンをロックオン
23時09分 ビーコン消感
23時47分 ヘリコプターから目視にてカプセル発見
(回収は日が出てから)


火球が出現した瞬間、光学観測担当者以外も待機施設(キャンピングカー)の外に出てしまい、本部から「持ち場に戻ってください!」(12人中9人が外に出ていた)

みんな感無量で、本部に報告するのに無駄に叫んでいた。

消感後、一杯やりたかったが、ウーメラ立入制限区域内では飲酒禁止。曽根さん(「宇宙の電池屋」として有名)は最後まで電池の心配をしていた。
【参考】ISASメールマガジン「
宇宙の電池屋 ~方探班の一員として~」
http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2010/back302.shtml

本部では、1分ごとの各班からの報告の交点を結んでカプセルの現在位置をプロットする。その点が、ある時逆行し始めた。当日の風向きが再突入の方向とは逆だったので「ああ、パラシュートが開いたのだな」。「自分が初めに気付いたと自負している」(久保田)

着陸後も電波を出し続けていたので、ヘリで近づいていったらすぐにわかった。

◇帰還の前日まで
國中先生も含め現地メンバーはみんな不安だった。弱音をこぼすことも。
「見つけられなかったらどうすんの」
「それまで帰れないんだよ」
「見つけられずに帰ったら、空港で石ぶつけられるよ」
など。

ビデオ撮影担当の方は、大阪のプラネタリウムで練習してきた。
はやぶさの再突入の速度で、プラネタリウム職員の方にレーザーポインタを振ってもらう。

みんな順調に行くとは思っていなかった。あんなにきれいにビーコンが聞こえるとは。トラブルがある前提の心構えだった。

「電波さえ出ていれば絶対見つけられる」と思っていた。

◇珍事件
ビーコンについて、仕様書が曖昧で「1秒で『ピー』と『ポー』が変化する」ということしか分からなかった。0.5秒ごとの変化で1秒間の間に「ピーポー」と鳴るのか、1秒間「ピー」と鳴った後に1秒間「ポー」と鳴るのか?

分からないので、電波方探担当者は前者で練習していた。

実際は、1秒間「ピー」の後、1秒間「ポー」。当日ビーコンが受かったときは「なんだか妙に落ち着いたビーコンだね」と言っていた。

◇質疑応答
Q.帰還が昼間だったら?
A.かなり明るかったので、昼でも光学観測はできたはず

Q.電波が出なかったら
A.1日10kmずつ横一列に並んで行進してローラー作戦で探す。
最初は1日20kmだったのを、回収班が勘弁してくれと言って10kmに。まむしが出るので長靴必須。

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この他にも、この講演会のためだけに杉浦さんが撮ってきてくださった(!)、「はやぶさプロジェクトチーム」の國中さん、川口さん、吉川さんからのビデオメッセージの上映もありました

久保田さん、杉浦さん、貴重なお話をありがとうございました。