2017年6月1日木曜日

【レポート】講演会「電子情報通信技術が支える国際宇宙ステーション」by油井亀美也宇宙飛行士

2017年5月31日(水)に慶應義塾大学三田キャンパス西校舎ホールで開催された、電子情報通信学会東京支部主催の油井亀美也宇宙飛行士による講演会「電子情報通信技術が支える国際宇宙ステーション」のレポートです。


学会主催の講演会でしたが、一般の入場も可でした。

箇条書き形式です。現地でとった紙のメモをベースにしています。(レポートというか、ほとんど油井さんの発言のメモです)


■油井さん登壇→挨拶
・失礼ながら、このような学会があることを講演の依頼を受けるまで知らなかった。皆さんの活動があってこそ、私たちが宇宙でも普通に通信できているのだと思う。
・情報・通信の専門家の皆さんを相手に、何を話せばいいのか。緊張している。
・我々宇宙飛行士は常に「ボタンを押せば地上と話せる」という状態にあるので、実はその仕組みがどうなっているのかまで詳しくは知らない。
・ISSのシステムは大きく複雑で、もはや一人の宇宙飛行士がそのすべてを知ることは不可能。

■今日の内容について
・私が知る限りのISSに使われている電子情報通信技術についての話と、長期滞在中の私の生活についてお話しようと思っている。

■宇宙での電子情報通信システムに求められるもの
・宇宙環境でも耐えられる「信頼性」
・故障しても安全性を損なわない「冗長性」(基本は3重の冗長性)
・人的ミスを防ぐシステム

■過酷な宇宙環境
・ISS内にいても2,3日で地上の1年分の放射線被曝
・日向と日陰で激しい温度差

■ISSについて
・日本、アメリカ、ロシア、カナダ、esa。
・日本はISSの部品に求められる品質基準を真面目に守っている。
・よって「きぼう」が一番静かで綺麗。
・そのため、他国のビデオ会見などでも「きぼう」が使われることがある。

■通信の重要性
・Soyuzの帰還時の事故(この件、詳しく知ってる人がいたら教えてください)
  • Soyuzは軌道離脱噴射中は(ロシア上空ではないので)地上と通信ができない
  • 一度、間違った逆噴射時間のコマンドを地上から送ってしまったことがあった
  • 地上では気付いたが、もう影側(通信不可)
  •  宇宙飛行士は気付かずに逆噴射を実行
  • 通常より噴射時間が短いことに気付き、もう一度実行するも、やはり短い。
  • まずいのは、一度逆噴射を実行してしまうと「メインエンジンを切り離す」という次の指令が走り始めてしまうこと。そうなるともう追加の噴射ができない。
  • この時は幸いにも気付くのが早かったので、指令をカットし、地上との通信が回復した時に協力して対処して事なきを得た。
  • 事程左様に通信は重要であり、ロシアもデータ中継衛星(Luch)を打上げて通信不可の時間帯を減らそうとしている。

■こうのとり5号機(HTV-5)と、ISSの危機的状況
・輸送機の3連続失敗によるISSのモノ不足
  • 耳掃除に使う綿棒
  • 体を洗う洗剤
  • コーヒー
  • 水循環システムのフィルター(替えが不足し水が汚れ始めていた)
  • etc...

・HTV-5が失敗したらもうISSで生活できなくなる、ということでプレッシャーだった。
・そんな中、ISS(油井さん)、筑波のスタッフ、NASA管制室の若田さんの連携で成功させた。
・PROXはすごい。HTV-5はX,Y,ZどのパラメーターでもほぼISSに対して静止していた。

■ISSでの生活
・睡眠時間8.5時間、仕事8時間、その他に朝食、昼食、運動、夕食の時間。
・睡眠時間は最長の人に合わせて設定されている。実際は翌日の仕事の準備をしたり、Twitterをしたり、家族や友達と電話したりという時間もその中に含まれている。
・仕事時間にトイレ休憩などは設定されていないので、前日までにタイムスケジュールを確認して「ここで行けそう」と見極めておく必要がある。

■ISSでのインターネットについて
・実はISSから直接インターネットに繋いでいる訳ではない
・ヒューストンにあるインターネット用のコンピューターをリモートでコントロールしている
・動画閲覧とかはほぼ実用の範囲外(ISSから地上へのダウンリンクは速いが、地上からISSへのアップリンクは遅い)
・電話もヒューストンを介するので、日本にいる家族や友達はアメリカからかかってきて驚く
・「アメリカに知り合いなんていないし…」と警戒されてとってもらえないことも。
・また、第一声が届くまでにラグがあるので、無言電話と思われて切られた例もあるらしい

■ISSから見た地球
・街あかりと同じくらい漁船の光がよく見える

■ミッションの紹介動画を見ながら
・地上との交信イベントの場合、アップリンクは遅いので宇宙飛行士から地上の様子は見えていない。安倍首相との会談の時、「高いところから失礼します」とギャグをかましたが、会場がウケてるかわからず不安だった。
・宇宙初のレタスを食べたが、実は大の野菜嫌いである(農家出身)
・地上から送られてきた新鮮なフルーツをカメラの前でがぶり!「おいしいです」
・でも実はあれはレモンだったのですごく酸っぱかった
・無重量だと、仕事していても運動量は地上で寝てる時くらい(だから放っておくとどんどん体が衰える)


質疑応答
Q.超小型衛星の放出ミッションについて。地上から届いた衛星を、宇宙飛行士の皆さんで故障がないか点検してから放出するということだったが、故障が見つかった場合は油井さんたちが修理するのか

A.幸いにして今のところすべて無事に届いているが、「そういうことも出来るようにならないと」と話している。


Q.油井さんはなぜ宇宙へ行くのか

A.自衛隊のテストパイロット時代から、もっと高く、もっと速く、もっと遠くへ、と思っていた。自分が宇宙を目指す理由はそれ。もちろん、宇宙飛行士ごとに様々な理由があると思う。


Q.人間はニュートン力学に縛られているのではないか(?)

A.皆さんにも宇宙へ行ってほしい。人は宇宙に慣れる。宇宙へ行ってすぐは頭がぼーっとするが、2,3日するとすっきりしてきて思考が冴えてくる。もしかしたら、宇宙に出ることで地上にいる時以上に発揮される能力もあるかもしれない。


Q.デブリ問題について

A.デブリ問題に対する日本への期待は大きいと感じている。
また、ISSの太陽電池パドルは常にダメージを受けている。それらがだめになった時がISSの寿命だと思う。


Q.辛かった訓練について

A.私にとっては辛かった訓練と面白かった訓練は同じ。

アメリカでは、握力を鍛える訓練(EVAの訓練?この辺記憶が怪しい)が最初は辛かった。その訓練をした時は握力を使い切って、ズボンのチャックが上げられなくなった。しかし仲間に「ちょっとチャック上げて」とも言いだせず、結局その日はチャックが下がったまま帰った。

ロシアでは、それまで1年間ロシア語を勉強していたにも拘らず、ロシア語の先生が尋ねた「どこから来たの?」という質問に答えられず2,3分悩んだ挙句に「あっち!」と答えたら先生にバカウケされた。
「このままではいけない」と思い、「楽しんで勉強しよう」と。
今では日本人宇宙飛行士の中でも1,2のロシア語能力だと自負している。


Q.たんぽぽ計画について

A.私も気になっているが、まだ結果は教えられていない。


Q.ISSの場所(軌道)について。なぜ今の場所なのか。

A.ロシアが参加したのでカザフスタン上空を通る軌道に。


以上です。
質疑応答では、油井さん自らマイクパサーを務め、質問者全員に握手をしてくださるというサービスっぷりに感動(握手して頂きました)。

油井さんありがとうございました。