2010年5月13日木曜日

トークショー「なぞなぞ宇宙講座5~宇宙への道~(5/9)」に行ってきました

トークショー「なぞなぞ宇宙講座5~宇宙への道~(5/9)」に行ってきました。
出演者は野田篤司さん、八谷和彦さん。聞き手に藤谷文子さん。

自分は初めての参加でしたが、"5"とナンバリングされてるように、これで5回目になるようです。といっても前回が2年前位、というお話でしたが。

初めに、空飛ぶパンツの空フェスマスフライトや、八谷さんが取り組んでいらっしゃるOpenSkyプロジェクトの紹介がありました。OpenSkyは、現在滑空機モデルが金沢の21世紀美術館で展示中とのこと。


そして本題である「なつのロケット団」へ。

野田さん、八谷さんは、藤谷さんにずっと「なつのロケット団」の活動を秘密にしていたそうです(藤谷さんが「聞き手」なのはこのため)。もっとも、以前の「なぞなぞ宇宙講座」で藤谷さんが「いっそロケット作っちゃえば」のような話を振ったら、お二人がピタっと話を止めて固まった瞬間があったらしく、その時から「何かある」と薄々感づいていらっしゃったそうですが…


■野田さんの夢と、なつのロケット団結成まで

そもそも、野田さんがNASDA(3機関統合前の、JAXAの前身)に入ったのは、有人宇宙船が作りたかったからだった。

しかし、当時のNASDAには、それを打上げるロケットが無かった。

そんな折、漫画家あさりよしとおさんが、野田さんの元に「理論上最小のロケットはどのくらいのものなのか」と聞きにやってくる。野田さんは、考え込んでしまった。

そこから本格的に検討を行い、生まれたのが 、漫画「なつのロケット」だった。これが1999年

2001年
次に、有人宇宙船「ふじ」を構想。これは松浦晋也さん著の「われらの有人宇宙船-日本独自の宇宙輸送システム『ふじ』」に詳しいだろう。

そして2004年
「では、最小の有人宇宙船と、それを打上げる最小のロケットの設計とは?」という 検討が始まる。

結論としては…
  • 宇宙船:1人乗りで(人を乗せた状態で)400kg。
  • ロケット:30t
また、「これはもう『日本国』としてやるべきプロジェクトではない。民間の手でやるべき」ということに。

ここで堀江貴文さんの名前が登場。「今、日本で一番お金持ってる人に、お金を出してもらおう」という考えから、アポを打診したら、あれよあれよという間に対面が実現した。会いに行くまでは「お金持ちに会いに行くという気持ちだった」と語る野田さんだが、会ってみて少し話すと「なんだ、自分と同じオタクだ」と認識を改める。実際堀江さんは元来の宇宙オタク。彼の六本木の自宅にお邪魔すると、テレビの前にたくさんの宇宙機のモデルが飾ってあったんだとか。すぐに「開発者と出資者」という関係ではなく「仲間」になった。
 
(堀江さんが、かな)ロシアに行くというので、「ついでに、これと、これと、これ買ってきて」とロケットエンジンなどを注文。しかし(どういう注文の仕方したのかは分かりませんがw)、個人や民間にはそう簡単に売ってくれるものではなかった。

買えないことがわかる→もうエンジンから自分たちの手で作ってしまおうという話に。2005年の暮れのこと。(これが「なつのロケット団」の結成と言っても良さそう)


実際はこの後、東京地検特捜部が動き出したり(2006年1月)と、色々あるのですが、この間にも着々とプロジェクトは進行していたようです。


■設計開始、実験場所


2006年8月。ロケットエンジン部品の設計図を手に町工場を回る。4件回ったらしい。意外にも「こんな得体のしれないもの作れるか!」と突き返されたのは1件のみ。2件は「面白そうだけど、継続した発注が無さそう=利益が出そうにない…」とお断り。最後の1件のみ、実際に協力してくれることに。

全てを町工場に発注したわけではない。殆どのものは、秋葉原の電気街や、東急ハンズや、ネット通販で手に入れた。

最初はあさりさん宅で組み立て&もろもろの試験。


この時点で、液酸/エタノールの組み合わせのエンジンにすることは決まっていた。
インジェクターで液酸/エタノールをそれぞれ噴出し、ぶつけて霧状に。そこにカローラのプラグで点火。カローラのプラグなのは、安くてどこでも手に入るから。

2007年。続いてとある別荘で燃焼試験。

試験成功。火を見ると衝動的に笑ってしまう体質の野田さん。

しかし、燃焼室が完成し、噴射が音速を超えて衝撃波を出すようになると、流石に音が大きすぎてまずいことに(まるでマシンガンを連射するような音、とのこと)。
騒音を気にしなくて良い次なる実験場を探すことになる。

場所探しに1年、紹介されたのが植松電機さん。(社長の植松努さんはCAMUIロケットを開発するカムイスペースワークスの創始者でもある)

最初に話を持っていったときは「甘いことを考えた金持ちが来た」という目で見られていたそうだが、開発模様をおさめたDVDなどを見せる内に「ああ、仲間だ」と分かってもらえたのだとか。

そして、2009年5月から30kgf級エンジンの燃焼試験を北海道植松電機の試験場で開始。

同年6月21日、初めての爆発。大変びっくりしたそう(そりゃそうだ)。
植松では、燃焼試験開始の警告音が「天空の城ラピュタ」の「パズーのラッパ」なのだが、それ以来一同トラウマになってしまったらしく、毎度耳にする度に嫌な汗をかくとか。
これをウェイクアップコールに起きた山崎宇宙飛行士の気が知れない、ともw

ちなみに爆発の原因は、点火が遅れ、エンジンがエタノールでベチャベチャになってるところに火がついたため。

同年9月~2010年2月、植松の協力の下開発した90kgf級エンジンの燃焼試験。

今は500kgf級の試験中。
このエンジンの燃焼試験の動画が公開されましたが、堀江さんがiPadにチェックリストを作成し、それでシークエンスを確認しながら行っていました。流石というかなんというか。


■そもそも何故、宇宙船を考えたりロケットを作ったり、しているのか

と、藤谷さんから野田さんに質問。

それは宇宙に行きたいから。

今の宇宙開発は、どこの誰ぞがやってるのか分からないが、つまらない。
自分は宇宙の「インテル4004」を作りたいと話す。

「インテル4004」は高級品だったコンピュータを誰でも買えるようにした。
自分は誰でも宇宙に行けるようにしたい。

更に「自分はロケットには本当はあまり興味がない。今、安価で、自分の目指す宇宙船を上げてくれるロケットが無いから、仕方なく自分で作っている」とも。


■Q&A

お客さんとの質疑応答。

Q.なぜ液酸/エタノール?

A.液水では軽すぎる。同じ大きさのタンクに、わずかな重さしか入らない。すると、ロケットが巨大になってしまう。(それに取り扱いが難しい)

また、エタノールは自然界にある物質なので、環境汚染の心配がない。それで、エタノールを選んだ。

ただ、ケロシンの方が効率は良いので、今植松と協力して、ケロシンを使ったエンジンも開発検討中である。

Q.ロケットの設計は誰が?

A,主に野田さんが。

デザインが大変。ミサイルに見えないように、明るい色を使ったり、キャラクターを付けたり、可愛く。

 (c)SNS株式会社

余談だが、キャラクターの名前は現在検討中。ロケットの名前「はるいちばん」にちなんで、「はるっち」「はるいち」などが候補。(「はるちゃん」が某公共放送に押さえられてますからね…) 

今年中は難しいかも知れないが、来年には、フォルムはCAMUIロケットだが中のエンジンを(ハイブリッドから)液体エンジンに換えたものを試験打上げする予定。

Q.CAMUIは何故、まだ大した高度に到達できていないのか?

A.一緒にやり始めて分かったが、技術的な問題ではない。手続きや用意が大変。

しかし、我々が一緒にやることで、そこを打破していけるかも知れないと考えている。
むしろ、CAMUIより先に我々が宇宙(高度100km)へ行ってみせる。

Q.目標は?

A.1000万で100g~1kgまでの衛星を打上げられるロケット。
大型ロケットは1kgあたり100万円。到底グラム当たりの値段は敵わない。しかし、これはバイク便と4tトラックを比較しているようなものである。手紙一通送るのに4tトラックは呼べない。

1億だとなかなか手が出ないだろう。しかし1000万なら、頑張ってお金を出し合えば、誰でも衛星を上げられるようになるのではないか。
今の人達は、昔のスパコンの数倍の性能を持つPCをみんな持っていて、それでエロ画像をDLしたり、くだらない事をやっている。だが、これが技術の真髄である。ロケットも、「そんなくだらないことをするためにロケットは使えない」というような、神聖なものではだめだ。「綾波レイや初音ミクを宇宙へ送りたい」というような、皆のくだらない欲望を叶えられるものになるべき。

日本のサブカルが強いのは、コミックマーケットがあるからだと思う。そこで売られている99%はもしかしたら屑かも知れない。しかし、1%世界に通用するものが出てきて、それがその世界を牽引して行く。

宇宙開発の世界も、まず裾野をすごく広げないと、先が鋭くはならない。
打上げ1回1000万は、量産効果を考えてもかなり難しいだろうが、実現したい。

Q.宇宙開発向きの家畜とは?

A.ロケットが形になってくれば、当然実験動物が必要となる。そこで考えているのは…

  1. ゴキブリ → 強い。死んでも悲しむ人は少ない。
  2. キジ → ロシアが犬、アメリカが猿、と来たら…?
  3. ミドリムシ → 動物、植物、両方の性質を見られる。
など。 

Q.野田さん、八谷さんのような「野良エンジニア」を増やすには、どうしたら?

A.好奇心が鍵か。

開発には、ゲームのような決まったゴールが無い。それが醍醐味。

Q.燃焼試験の公開は?

A.今は危なくて、とても人には見せられない。

そのうちするかも。ニコ生しよう、という話もあった。
きっと大将(堀江さんはこう呼ばれているらしい)が決めるだろう。


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内容は、おおよそ以上です。最後に以下二つの告知が…

6/6(日) ロケットまつり38
ロフトプラスワンで大将・堀江さんを迎えてのトーク。実質今回のお話の続きが聞けそうです。今年2月の燃焼試験中に起こった「やばい爆発」の映像も公開するとか。こちらから予約できます。

6/19(土) なぞなぞ宇宙講座EXin金沢
金沢にて、この「なぞなぞ宇宙講座」メンバーでトークショー。すみません、詳しい場所は不明。聞き逃したかな…


ちなみに、今回の登壇者のお三方の内、八谷さん、藤谷さんはTwitterをやっていらっしゃいます(帰ってきてから気づきましたが)。

フォローフォロー
@hachiya
@ayakofujitani


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【参考リンク】

"なぞなぞ宇宙講座~宇宙への道~ - 大塚実の取材日記" http://bit.ly/btqvQc
#こちらより断然詳細なレポート。

"SNS株式会社公式サイト" http://www.snskk.com/
#「なつのロケット団」ことSNS株式会社の公式ブログ。燃焼試験の動画などが見られます。

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 ※必ずしも正確なレポートではないので、間違い等あったらご指摘を。